「ワルツ・ウィズ・バシール」を観る前の予習 レバノン戦争はめちゃ複雑な戦争

「ガザ侵攻」についてちょっと書くつもりが、いまだ終われない。結局,世界情勢なんて色んな事柄が連鎖してることだからね。それも仕方ないんだけど・・・先日、ラジオで町山氏が一本のイスラエル映画を紹介していた。タイトルは「ワルツ・ウィズ・バシール。今年のアカデミー賞、外国映画賞にノミネートされていて(日本の映画「おくりびと」も一緒にノミネートされてる)、おそらく最優秀賞を獲るだろうと言われている。最近、「ガザ侵攻」のニュースもあって、とりわけ話題になっているそうだ。
この映画、1982年に起こったレバノン戦争を題材にしたドキュメンタリーで、何故か全編アニメーションだという。映像を見る限り、とても興味が湧いてきた。



あらすじ
 1982年、19歳のアリ・フォルマンイスラエル軍の兵士であった。2006年、彼は古い戦友に1982年のレバノン戦争で経験した事に基づく悪夢を見ると告げられるが、フォルマンは内戦の事を覚えていない。その晩、彼はサブラー・シャティーラーのキャンプ虐殺の晩の光景(記憶)を夢で見る。フォルマンはその記憶の中で、ベイルートの街の浜辺で、彼は戦友等と裸で水に浸っており、街の空いっぱいに照明弾が放たれているのを眺めている。一体これは何を意味するのか?フォルマンは戦争に関する記憶がない。どうして彼はそんな重要な出来事を忘れてしまったのか?彼は戦友等に会い、忘れてしまった記憶を取り戻そうとする。

ちょっと早過ぎるかもしれないけど、この映画を観る前の予習として、レバノン戦争とはなんだったのか書いてみようと思うんだけど、このレバノン戦争、実に複雑な話なんだよね。だからこの話題は今まで書かないでいた。でも中東にとって重要な出来事であり、多くの人命が失われた歴史的悲劇だった。。なるべく判りやすく、ざっくり書いてみる。

結局ね。パレチスナ難民の行く処災いありって話なんだよね。1948年ユダヤ人がパレスチナイスラエルを建国したら、第一次中東戦争が起こって、イスラエルの勝利でパレスチナ人は難民になってしまった。

パレスチナ難民は行く場所ないから隣国、ヨルダン・レバノン・エジプトに入って難民キャンプを作っていったわけ。特にヨルダンは沢山の難民を受けいれてくれた。当然、ヨルダンもイスラエル憎しと思ってるから、彼らと一緒にイスラエルをやっつけようと考えていたんだね。でも状況は悪くなるばかり。業を煮やしたパレスチナ人は自らPLOパレスチナ解放機構を結成してゲリラ活動をするようになっていった。
第3次中東戦争でもイスラエルが再び圧倒的勝利を収めると、ヨルダンは方針を転換させ、イスラエルと和平交渉を始めるようになる。これに怒ったのがPLO「裏切りやがったな!」ってことになって、今度はヨルダン転覆を謀るんだな。ヨルダンをパレスチナの国家にしようとしたわけ。メチャクチャだなあ。当然、ヨルダンの国王は激怒。PLOパレスチナ難民は全員ヨルダンから追放じゃ!」大きな内戦に突入しちゃった。ヨルダン内戦
PFLPパレスチナ解放人民戦線PLO内の一派  ヨルダン・フセイン国王
結局アメリカが仲介に入ったことで、この内戦は収まる。PLOはじめ、パレスチナ難民はヨルダンから追放され、その受け入れ先としてレバノンに移ることになる。これでヨルダンはアラブ全体から嫌われてしまったんだよね。同じアラブ人を国外に追放したこと、イスラエルといい関係になろうとしたこと。これは許しがたいことだったんだね。
ちなみにこの後、スピルバーグミュンヘンの事件や、日本赤軍のテルアビブ空港爆破事件など、パレスチナゲリラによるテロ事件が頻発するのだ。
さて、問題のレバノンだ。この国はとっても複雑な宗教構成になってる。大雑把に書けばキリスト教徒とイスラム教徒が6:5の割合で混在していたわけ。まあ、微妙なバランスで成り立っていたんだね。金融や観光で経済的に豊かだったことが影響してたかもしれない。ベイルートなんて巨大観光地だったのだ。
  ベイルート
このビデオ見たら行きたくなるなあ。この栄えた街が廃墟になる。
そこにパレスチナ人が入ってきたわけ。彼らってイスラム教徒だよね。その事が宗教のパワーバランスを崩す事態になってしまったのよ。その頃、レバノンで権力を握っていたのはキリスト教の最大派閥、マロン派といわれるグループだったんだけど、次第に数の増えたイスラム教徒から不満の声が上がるようになっていった。危機感を持ったマロン派は自分たちの利益を守るため民兵組織を作って対抗。初めは優勢だったのが、イスラム派組織にPLOが加勢するようになると、事態は逆転しながら大きな内戦に発展していった。レバノン内戦だ。
闘いとなったらPLOが一枚も二枚も上だよね。あっという間にマロン派の敗北は決定的となる。しかしPLOはあまりにも強過ぎた。(というかレバノンが戦争慣れしてなかった)レバノンの80%を征圧してしまったというから驚きだ。このままだとPLO主導の政権が誕生してしまう。これってマズいよね?だって数々のテロをやってきたパレスチナ人のPLOレバノンを支配するんだよ。他の国が黙ってるはずがない。レバノン人だって我慢ならないよ。まず、ずっとPLOを支援していたはずのシリアがPLO征圧に動いたのだ。さすがのPLOも防戦一方。これまたあっという間に協定を結ぶこととなる。レバノンを支配するなんて考えるな。南レバノンの一部を自由にしていいからさ。それで我慢しておけ」ってな感じでシリアの説得に応じるのだった。まあ、PLOとしては「解放区」を手に入れたことでよしとしないとね。
キャンプ・デービッド合意 アメリカの仲介でイスラエルとエジプトが和平を結ぶ。
そこでやっとイスラエルの登場だ。とはいっても、その間、エジプトと和平協定を結ぶなどしてPLOへの戦闘態勢を強化していたんだよね。地図を見てもらえれば判ると思うけど、エジプトと仲良くしておけば、後ろを気にせずレバノンに向けて一斉攻撃が可能になるでしょ?内戦の時も攻め込もうとしていたんだけど、アメリカから止められて動けなかった。南レバノンPLOが支配することとなり、イスラエルは今こそPLOを殲滅するチャンスだと思った。
そして1982年 「ワルツ・ウィズ・バシールの舞台となるレバノン戦争が幕を開ける。きっかけはイスラエルの駐米大使が何者かに襲撃されたからというものだったんだけど、おそらくでっちあげだろうね。PLO兵15000人に対し、イスラエル兵は50万人。それにPLO・シリアに敵対するレバノン軍も加わった。その軍の大将がバシール・ジェマイエル。映画のタイトルのバシールは彼の名前だ。
 バシール・ジェマイエル
イスラエルはその開戦をガリラヤの和平作戦」と名付けた。(これもでっち上げ、ガリラヤ地方は別にPLOの被害を受けていなかった)イスラエルは圧倒的な力で南レバノンパレスチナ・キャンプを瓦礫に変えていった。すべて焼き尽くした。大虐殺が始まったのだ。家を追われた南レバノンパレスチナ難民は首都のベイルート流入していった。もはや、ベイルートパレスチナ難民の巣窟となっていったのだ。シリアも慌てて参戦し、イスラエルを攻撃したがその勢いは止められるはずもなく、逆に基地を破壊されてしまった。国連軍も入ってくるが何もできず、イスラエル軍は悠々とベイルートに向け、行進していった。ちなみにイスラエル兵の大半は何故、自分たちがベイルートに行くのかよく判ってなかったという。イスラエルは男女問わず徴兵制が敷かれていたので、こんなものかもしれない。(イラクで闘ったアメリカ兵も似たようなもんだった)
ここから起こる事は、悲惨極まりない。国際的非難を浴びながら、イスラエルは悪の限りを尽くしたのだ。映画で観るもよし、自分で調べてもらってもいい。あくまで映画を観る前の予習ということでここまでにしておこう。
この映画はまだ日本では上映未定だそうだ。アカデミー賞を獲ればやるだろうね。でも田舎じゃ無理か。DVDだけでも出てくれればそれでいいか・・・